ミニ企画展「縁側の茶器」(5)
今日は湯冷ましについて書きます。
湯冷まし
玉露を入れる場合はお湯の温度を50~60度くらいにさます必要があります。それで湯冷ましという道具を使います。熱い温度で入れる煎茶には湯冷ましは必要ありません。また、玉露が生まれたのは天保年間(1830~1844)のことなので、それ以前には湯冷ましは使われませんでした。
玉露は甘みのあるまろやかな味が特徴で、緑茶の中では最高級品とされています。煎茶とは栽培方法が異なり、茶摘みの約2週間前の新芽が出始める前から茶畑を葦簾(すだれ)で覆います。直射日光を遮ることで柔らかい鮮やかな緑色の葉ができるのです。覆下園(ふっかえん)から取れた茶は、煎茶よりきわだって鮮やかな緑色をしており、揉み方もふっくらと丸く仕上げます。茶摘みの時期は煎茶より遅く、摘んだ後も寝かせた方がまろやかになるため、新茶の出回るのは十月頃からです。
湯冷ましの形は、水差しから取っ手を外したようなものや、片口鉢のようなものがあります。湯の温度を効率よく下げるため、底より口を大きく作ってあることが特徴です。資料館にはなぜか湯冷ましはたくさんあります。急須や茶碗とセットにならない湯冷ましの単品もあります。それだけ玉露を飲む文化がこのあたりにはあったと思われます。
そんなとき図書館で出会ったのが小川流煎茶6代目家元の書いた『漱石と煎茶』という本でした。漱石の『草枕』を中心に煎茶の心を説いています。ちなみに『草枕』では煎茶の場面はこんな具合です。
「濃く甘く、湯加減に出た、重い露を、舌の先へ一しずくずつ落として味わって見る・・・舌頭へぽたりと載せて、清いものが四方へ散れば咽喉(のど)へ下るべき液はほとんどない。只馥郁(ふくいく)たる匂いが食道から胃の中へ沁み渡るのみである。」
私も南部町にいた頃、水で出した煎茶を小さい茶碗でいただいたことがありますが、ほんとにびっくりしました。お茶ってこんなに甘くおいしいものだったんだと。(漱石の表現とは比べものになりませんが)漱石も言っているとおり、こういうお茶は飲むものではなく、喫するもののようです。
煎茶道ではほかにもさまざまな道具を使いますが、家庭でお茶を入れるときには急須・茶碗・茶托・(湯冷まし)で充分です。ちょっと気取っておいしいお茶を入れてみませんか。
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