座繰り器
当館のある中央市豊富地区は平成のはじめまで全国屈指の繭生産地でしたので、養蚕に関する資料が数多く収蔵されていますが、繭を出荷した後に汚れ繭などを使って自宅用の糸をとる道具も充実しています。
今日はその糸を取る道具、「座繰り器」を見ていただきたいと思います。
一年のうち、5月の春蚕からはじまる養蚕はだいたい9月終りの晩々秋蚕でおしまいです。
農繁期が終わると、かつての主婦は出荷できなかった繭から糸をとり自家用の着物を作ったり、真綿をつくったようです。
それでも昭和30年以降くらいになると、屑繭を専門に引き取る業者がいたので、家では糸をとらなくなり、真綿も作らなくなったと聞いています。
ですから来館される地元の方(65歳以上)に伺っても、「自分のおばあさんと母親がやっていたのを幼い時に見た記憶がある」程度で、座繰り器や揚げ返し器の使い方や真綿の掛け方について覚えている人には今のところお会いできていません。
しかしねぇ~、この地の主婦がかつて自分の家で糸を取っていたことを証明する道具、「座繰り器」が、当館には多数収蔵されているんですよぉ~!
収蔵庫のものを加えると10点ありました。その中から糸を巻き取る仕組みや形状により分類してご紹介しようと思います♪
まずここで、どのような手順で繭から糸を取るのかご説明しておかないと・・・。
蚕は糸のまわりにセリシンという接着成分をコーティングしながら吐いています。
ですから、糸同士がしっかりくっつき球状の繭をつくっています。
そこから1本の糸を取りだすには、繭を煮てセリシンを溶かして柔らかくしておき、蚕が繭を作る時に吐いた順に糸を取り出し、巻き取っていきます。
鍋で煮た繭の表面を藁の穂先で作った小さな箒で撫でることで糸口を絡め取り、糸の太さにより5本から60本位を束ねて撚りをかけながら取りだしていくのです。
「座繰り器」は繭から取り出した糸を撚りをかけながら巻き取っていく道具です。
当館所蔵資料には太糸を繰糸できる「奥州座繰り器」が3点と、細糸を繰糸する「上州座繰り器(富岡座繰り)」が5点、平座繰り器と思われる資料2点がありました。
「奥州座繰り器」
大小2つの調車に糸(調糸しらべ)をかけて、ハンドルを1回転させると小枠が4回転半するようになっています。
小枠が回るのと同時に、「山路(やまみち)」という綾振り機能をもたらす部品も動き、小枠に糸を平均に巻き取ります。
「山路(やまみち)」 20から60個程の繭から同時に糸を引き出して太い糸をとる場合、この山路という部品がついている座繰り器は力が強いため多く使用されたといいます。
「上州座繰り器(富岡座繰り)」 歯車が5枚でハンドルを1回転させると小枠が7回転するタイプです。 群馬県の碓氷・甘楽・富岡地方において、輸出用細糸を繰糸する際に多く使用したそうです。 綾振り棒は横に噛み合わせた歯車の回転によって動く仕組みになっています。
他に、
「平座繰り器」という、振り手(綾振り機能)がない初期タイプと思われるものもありました。
歯車(当館資料4枚歯車)を右手で回し左手で撚りをつけます。
しかし平座繰りが使われたのは1830年~1840年位からと古いので(http://www.manabi.pref.gunma.jp/kinu/sangyo/seisan-gyo/05zaguri/zaguri.htm による記述による)、当館資料は大枠をセットして座繰りで取った糸を揚げ返しするのに使用した可能性もあります。
「鼓車(こしゃ)」
鍋に沸かした湯で繭を煮て、みご箒で(稲の穂先などをまとめた小さな箒)で繭をなでて糸を取り出し、数本をまとめて「鍋に取り付けた弓→鼓車→綾振り棒」と糸は通り、→小枠に巻き取られていきます。
一つの繭は約1200mから1500mの一本の糸でできており、蚕が吐いた糸の太さは0.01㎜(3デニール)といわれています。
ちなみに大人の着物一着(一反分の生地)を作るのに必要な繭の個数は約2600粒です。
先日、当館に立ち寄られた団体ツアーのお客様に、3種類の座繰り器で糸をとる体験をしていただきました。
座繰り器には、巻き取る仕組みや形状にさまざまタイプがあり、生産する糸の質を変える工夫がされていることにみなさん驚かれていました。
また、木でできた歯車などの精巧な部品の動きや巻き取られた糸の美しさに感心されていました。
かつてこの地の主婦が普通にやっていた座繰りの仕事を、実際に体験してみるのも面白いですよ。
今後、団体でのご見学などでご希望があればこのような体験の機会を増やしていきたいと思っています。是非ご相談ください。
まゆこ
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