小麦(7)
富子だけんど、いよいよぬくとくなってきたじゃんね。畑へ出てるしゅうも多くなってきて、それに負けんくれえ草もおいてきとう。資料館の麦もずっと雪の下にいとうけんど、最近はどんどんでっかくなってきてるだよね。
ほうやっていよいよ麦の秋になるっちゅうと、麦刈りをするこんになるさね。お父ちゃんとおかあちゃんと子どもんとうの総出で刈り取るだけんど、そんなにでっかい畑を持ってとうわけじゃねえから、こいちんちで終わっちもうさ。
次は脱穀をするさ。近所で足踏み脱穀機を使ってるところを見たこともあるけんど、うちじゃあ、モーターで動く脱穀機を使って脱穀してたね。そうはいっても自分えの機械じゃあなくて、下の集落のうちのものを借りてきとうさ。まずは、お父ちゃんが脱穀機の本体を、背負子に付けて背負ってくるさ。でっかい機械だから、背の低いお父ちゃんは脱穀機に隠れて見えんくらいでね。背は低いけんどがっしりしてたから、坂道を上ってくる足取りはしっかりしていたさ。それを遠くから眺めてると、「ああ、麦扱きの日がきたなあ。」って思うだよね。ほのあとで、持ち主のおじさんと一緒にモーターを担いでくるさ。モーターはものすごく重かったと思うけんど、ロープで丸太にぶらさげて二人がかりで担いできたさ。今じゃあ考えられんよね。ほうしてうちの庭で組み立てて、スイッチを入れろばモーターが回って、脱穀機が動くっちゅうわけ。時効だと思うから言うけんど、ほの電気は電線の途中からもらっってきたさ。すごいことをするじゃんね。むかしゃあアンペアがちっくかったから、ほうでもしんとブレーカーがおっこっちまっとうだよね。
脱穀機の持ち主のおじさんにも手伝ってもらって、麦扱きも一家総出でするさ。これっから扱く麦を渡したり、扱き終わった麦をまるけたり、麦の束を運んだり、音もでかいし、忙しいし、まったくお祭りみたいだったよう。
扱き終わって、残った麦わらはどうするかっちゅうと、屋根を葺くのに使うから、うちの雨の当たらんとこにおいて取っておくさ。ほかのうちからももらったりして屋根を葺くのにいるだけ集めて、屋根屋さんに来てもらって屋根葺きをするさね。屋根はでっかいから、いっぺんに全体は替えられんで、前の方だけとか、後ろの方だけっちゅうように順を追って替えるさ。
そうゆうわけで、麦わらがたいへん積んであるところに蛇がもぐりこんでいたから、さあ困らあ。お母ちゃんが寝てるときに、何か冷たいものが体にさわるからっちゅうで、明かりをつけてみてみたら、寝間着のたもとに蛇が入ってとうさ。うちのお母ちゃんは、世の中で何が嫌いって、蛇くれえ嫌いなものはなかったから、恐ろしいし、驚いたし、大騒ぎだったさ。蛇の皮を財布に入れとくと、金持ちになれるとか言って、蛇の皮を見せるだけでも大騒ぎをするくれえの人だったからね。
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